2025-04-08

営業か否か、それが問題──理美容と法律の線引き

 前回ご紹介した、理容師法、興行場法、旅館業法、公衆浴場法、クリーニング業法、美容師法の6つの法律。これらはまとめて「営業六法」または「生衛六法」と呼ばれていますが、実は「営業六法」が元々の呼び名で、「生衛六法」は比較的新しい表現です。

ではなぜ「営業」という言葉がつくのでしょうか。

それは、これらの法律が“営業”活動を前提に定められているからです。対象となる6業種は「生活衛生サービス業」に分類されており、法の目的も主に営業における衛生の確保にあります。


つまり、家庭内での行為には基本的に適用されません。

たとえば、自宅での入浴や洗濯、テレビ鑑賞、睡眠──いずれも“営業”ではないので法の対象外です。親が子どもの髪を切ったり、親しい友人に散髪したりする行為も同様。そこに金銭のやりとりがなければ、法が口を出すことはありません。


しかし、もし金銭が発生した場合は話が変わります。

たとえ親しい間柄でも、継続的に料金を取ってヘアカットをすれば、法の適用対象になる可能性があるのです。


興味深いのは、無料でも“営業”と見なされるケースがあること。

以前、某テーマパークで、美容師が来場者に無料でメイクを行うイベントを行おうとしたところ、「不特定多数への施術」にあたるとして認められませんでした。無料であっても、不特定多数に対して継続的に提供する行為は、「営業」に準ずると見なされるのです。


一方、極端な例として南極越冬隊の話があります。隊の中で、1日でヘアカットを習得した隊員が他の隊員の髪を切っていたそうですが、こちらはもちろん問題なし。理由はシンプルで、不特定多数ではなく、しかも無料だからです。加えて、南極という特殊事情もあるのでしょう。誰も違反だと騒ぎません。


ただ、「不特定多数」や「継続性」の定義は実はあいまいです。

たとえば、日本に来て働いている外国人が、同じ国のコミュニティ内で散髪をしてあげるという例はよくあります。言葉の壁や髪質、文化的な配慮などから、同胞の中で手先の器用な人がカットを担当する。こうした行為に金銭のやりとりがあると違法になりますが、無償の場合はどうか?


このように、営利と無償、対象の範囲や回数など、細かな要素が絡む中で、「営業六法」がどこまで適用されるかはグレーゾーンを含みます。


私たちの身近な生活にもかかわる「営業」の定義。

それが、法律というフィルターを通すと、少し違った顔を見せてきます。

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