2025-04-06

「営業六法」 日本の生活文化を支える法体系

 「六法」と聞いて思い浮かぶのは、憲法や民法など日本の主要な六つの法令でしょう。

しかし、分野ごとに主要な法律をまとめて「〇〇六法」と呼ぶこともあります。

たとえば「郵政民営化関連六法」や「社会福祉六法」がその一例。実は、理美容業などの生活衛生業界にも「六法」が存在します。それが「営業六法」、あるいは「生衛六法」と呼ばれるものです。


具体的には、以下の6つの法律を指します。

理容師法、興行場法、旅館業法、公衆浴場法、クリーニング業法、美容師法。

これに食品衛生法を加える場合もありますが、「七法」とは呼ばれません。


いずれの法律も、厚生労働省・生活衛生課が所管する業種に関わるものです。


最も古いのは昭和22年制定の理容師法。続いて、昭和23年に興行場法・旅館業法・公衆浴場法、昭和25年にクリーニング業法、そして昭和32年に美容師法が制定されました。


これらの職業はいずれも江戸時代から存在していました。

理容は「髪結」、興行は「寄席」、旅館は「旅籠屋」、公衆浴場は「湯屋(銭湯)」、クリーニングは「洗濯(洗い張り)」、美容は「女髪結」と呼ばれていました。

湯屋に至っては、奈良時代には「施湯」として存在していたとも言われますが、庶民の生業として根づいたのは江戸時代からです。


こうした業種は、明治維新を経ても形を変えながら受け継がれてきました。


現在、生活衛生課が所管するのはこの6業種にとどまりません。さらに12業種を加え、「生衛16業種」とも呼ばれています。以下がその内訳です:


めん類店(そば・うどん)

中華料理店

すし店

料理店(料亭)

喫茶店

その他の飲食店(レストラン・食堂)

社交業(バー・スナックなど)

食肉販売店

食鳥肉販売店

氷雪販売業


めん類店、すし店、喫茶店(茶店)などは、江戸時代から見られる業種です。一方、明治以降に生まれたものも含まれており、現代の飲食業界は業態が多様化していて、分類が難しい店舗も増えています。


食肉販売店と食鳥肉販売店も、今では区別の必要がないように思えますが、歴史的な経緯が異なります。

鶏肉は江戸時代から食されていましたが、牛や豚などの肉が一般に広まったのは明治期以降のこと。だからこそ、区分されているのでしょう。


氷雪販売業も時代を感じさせる業種のひとつです。冷蔵庫が普及する前は、町ごとに製氷業者がいて、家庭に氷を届けていました。今ではその数は全国でも数社にまで減っています。


生活のかたちが時代とともに変わる一方、行政の分類や制度は過去を引きずったまま。

古き良き日本の生活文化を今に伝える「営業六法」と「生衛16業種」は、そんなギャップを映し出しているようです。


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