理髪師は衛生兵に選抜されることが多い、という元衛生兵の理髪師さんの話を紹介しましたが、今回は戦場では徴兵前の前職が役立つことがあるという話です。
これも理容組合の支部長だった元衛生兵の理髪師さんのニューギニア戦線体験談です。
軍の司令部から見放され棄兵集団となった部隊で一番役立った職業は、野鍛冶職人だったそうです。野鍛冶職人とは田舎で金属製の農具など簡単な金物を作る鍛冶職人です。いまはいませんが戦前にはあった仕事です。
ニューギニアで棄兵となった部隊は少人数のグループに分散して自活していましたが、そのグループ間でも交流があり、別のグループにいた野鍛冶職人の作った生活道具が役に立ったといいます。とくに太めの針は何かと便利で、何本か物々交換でもらい受け、使ったそうです。日本兵が使うだけでなく、現地の原住民にも喜ばれ、食料と交換して飢えをしのいだそうです。
野鍛冶職人は極太の釣り針も作りました。その釣り針で魚を釣って食料にしたといいます。陽が落ちかけたころ、あるいは明け方、その釣り針を垂らすだけで、餌も付けていないのに釣れた、といいます。本当かな?
支部長さんはニューギニアの魚はバカなんだ、といってましたが、後日、餌を付ける前に川の中に釣り針を流していたら、ウグイが針をくわえて釣れたのです。ニューギニアの魚がバカなのではなく、要は腹の空いた魚がたくさんいれば空針にも食いつくらしい。
その野鍛冶職人の兵隊はナイフなども作り、支部長の理髪師さんが同僚の兵隊の髭を剃ろうとしたのですが、削ぐのがやっとで、無理だったといいます。おそらく銃弾の鉛などを混ぜて作ったナイフで、焼き入れや鍛練も十分でない代物だったのではないかと想像できます。
「斜行しても髭が引っかかって、痛がって逃げてしまった」といってました。斜行とは理容師さんが使う技で、斜めに剃刀を運ぶことで切れ味がよくなります。
いくら腕があっても、まともな道具がなければ、役に立たなかったようです。
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