2025-03-01

『昭和御大礼衛生記録』(昭和4年)の理髪業

 昭和4年3月30日発行の『昭和御大礼衛生記録』という内務省衛生局の報告書があります。

厚生省(現・厚生労働省)創設時(昭和13年)、理美容業は同省の所管ではありませんでした。

創設時の厚生省は、内務省の衛生局と社会局で構成されていましたが、理美容業は内務省の警保局が所管していました。衛生警察といわれる部署で、国民生活を衛生面から安寧を保持するのが役目でした。


理美容業の主所管局は警保局でしたが、衛生局が無関係だったわけではありません。


『昭和御大礼衛生記録』に昭和3年3月28日発令の「衛生施設事項に関し、地方長官や関係職への依頼通牒」が記載されています。

そのなかの「一般事項」に、

「第7、その他衛生上取締を要する各種営業に関する件」の「2」として、

「理髪店に対してはその設備及び作業に於いて公衆衛生上周到なる注意をなさしむること」とあります。


1は、劇場、活動写真館(映画館)、寄席などの場内清潔、換気

3は、浴場の衛生的な設備と豊富な上がり湯

4は、貸夜具営業者に対し、営業用夜具の日干し消毒

5は、多数の人が集まる各種工場、会館の衛生上の注意

などを通牒しています。

「第7」の前の「第6」は「旅店、料理店、飲食店、貸座敷」がテーマになっており、理髪業、興行、浴場業、旅館ホテル業、飲食業は、現在の生活衛生業に含まれる業です。


「第6」「第7」以外のテーマを列記すると、第1は「飲料水」、第2は「下水、街路」、第3は「灰塵(ゴミ)処理」、第4は「屎尿」、第5は「飲食物取締」です。いづれも衛生への配慮を求めた内容です。


さらに、第8は「花柳界病予防」、第9は「結核・トラホーム」、第10は「癩病」、第11は「精神病者」、第12は「防疫」、第13は「救護」、第14は「各種団体」となっています。

第14の「各種団体」には医師会、歯科医師会、薬剤師会、日本赤十字社、看護婦会などとともに衛生組合も含まれています。


この「衛生施設事項に関し、地方長官や関係職への依頼通牒」では、各種団体が事業者に対して啓蒙活動を行うよう求めています。

昭和3年、4年の時点では、内務省の衛生局も理美容業はじめ生活衛生業に関わっていたのがうかがえます。


『昭和御大礼衛生記録』をみると、衛生局の生活衛生業へのかかわり方は、主に施設や設備などの衛生管理が中心なようで、施術者や人への指導が中心だった警保局とは若干スタンスが違っていたようです。


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