江戸の草分名主として知られる斎藤月岑(げっしん)による『武江年表』は、江戸を中心とした出来事を年ごとに記録した年代記です。そのなかに、「毛降(けふり)」という不思議な現象が登場します。しかも一度きりではなく、複数回記載されています。
江戸の町では、ときに思いもよらないものが降ったと記録されています。「毛」以外にも、「甘露」や「灰」、さらに江戸後期になると「札」が降ったという記述も見られます。この「札」は、誰かが意図的に撒いたものだろうと推測されています。「灰」については、『武江年表』の校注者が「数日前に浅間山の噴火があった」などの注記を加えている場合もありますが、多くの事例では詳しい説明はありません。
寛永7年(1630年)6月23日の条には、「大地震。毛降。」と簡潔に記されています。このほかにも頻繁ではないものの、「毛降」が起こったとされる日がいくつか確認できます。
『武江年表』には、大洪水や大風、大地震、大火事といった災害の記録が数多く残されていますが、その一方で、現代でいえば超常現象や怪異譚を思わせるような、不思議な出来事も記されています。「毛が降る」という現象も、そうした不可解な事象の一つだったのかもしれません。実際に自然現象だったのか、あるいは誰かが集めた毛を意図的に撒いたものなのか、真相は分かっていません。
もし「甘露」であれば子どもたちは喜んだかもしれませんが、「毛」が降ってくるとなれば、当時の町人にとってはかなり迷惑な出来事だったのではないでしょうか。
なお、現代の視点から見ると、動物の毛や植物繊維、あるいは昆虫の群飛などが「毛降」と認識された可能性も考えられますが、確証はなく、想像の域を出ません。

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