げつしきは月代(さかやき)にするための道具で、木製の大型毛抜きです。頭部の髪を挟んで抜き去るもので、非常に痛いだけでなく血が流れることもあったと、16世紀に来日したルイス・フロイスが記録しています。
「げつしき」は「げっしき」や「けっしき」と表記されることもあります。喜多村信節は『嬉遊笑覧』において、その名称の由来を考察しています。彼によると、
「げつしきのことは、げじきの訛(なまり)なり。」
と、複数の資料をもとに断言しています。
喜多村信節の考察によれば、「歴日に下食あり」との記述があり、「げつしき」は「下食」と書くとされます。この日に沐浴すると髪の毛が落ちるという南北朝時代の事典『拾芥抄』を引用し、「下食」は「げじき」と読み、それが訛って「げつしき」になったという説を提示しています。さらに、虫のゲジゲジが触れると毛が抜けるという伝承も、もとは「下食」が由来で、「げじき」から「げしき」、そして「ゲジゲジ」になったと推測しています。あわせて、『源氏物語』や俳諧集『鷹筑波集』『紅梅千句』なども引用し、論証を重ねています。
当欄の筆者は、「げつしき」(「げっしき」「けっしき」)という語を初めて見たとき、髪を引っ張って抜く道具であることから「毛を引く」が転じて「毛引き」→「けっしき」→「げつしき」になったのではないかと単純に考えました。しかし、博識で知られる喜多村信節の説を前にしては、ただ脱帽するほかありません。
この「げつしき」は、現在ではまったく使われることのない過去の道具で、完全に歴史の遺物です。いまとなっては、その語源や由来は「どうでもいい話」の一つに過ぎないのかもしれません。

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