「天窓」と書いて「あたま」と読ませる──そんな表現が式亭三馬の『浮世床』には頻繁に登場します。
舞台が床屋だけに、髪や頭にまつわる言葉が多く出てくるのは当然ですが、初めて読むと面喰ってしまいます。なにしろ「頭」という漢字も普通に登場するので、読み慣れていないと「ん?」と戸惑うのです。
手元の岩波文庫版『浮世床』(1928年刊、和田万吉校訂)では、「天窓」に「あたま」とルビが振られているため、意味が分かって読み進めることができます。とはいえ、現代の文庫本のようにスラスラと読めるわけではありません。
現在、「天窓」を辞書で引くと「てんまど」と読み、「屋根や天井に設けた窓」と定義されています。「トップライト」「スカイライト」「ルーフウィンドウ」など、洋風建築用語の訳語として紹介されることも多く、当然ながら「頭」とは無関係です。
おそらく、頭頂部を剃った月代(さかやき)の形が、空に抜けた“天窓”のように見えたため、「天窓」を「あたま」の当て字に用いたのでしょう。類似の例として、月代頭の別名「篦頭(へらず)」もあります。もっとも、「篦頭」は現代では使われていないため混乱は生じませんが、「天窓」は現在も建築用語として現役なだけに、余計にややこしく感じられます。
江戸の言葉遣いには、こうした遊び心や比喩が多く見られ、時代背景や文化を知る手がかりにもなります。
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