2022-08-10

金紙七髷結(きんがみはねもとゆい)

 『好色一代女』は、嵯峨の「好色庵」に住む老女(一代女)の懺悔録ともいえます。


彼女はいろいろな職業を経験しています。宮仕にはじまり、舞子、大名の側室、遊女などなどです。


売春婦に近い職業が多いのですが、御梳(おかんあげ)という仕事で、さる屋敷に奉公にあがっています(巻三の4/金紙七髷結、きんがみはねもとゆい)。


…烏羽黒(うばたま)の髪の落ち。みだれ箱、十寸鏡(ますかがみ)の二面。見しや假粧べやの風情。女は、髪かしら、姿のうはもり、といへり。…

名調子ではじまる、巻三の4(金紙七髷結)です。


奉公先の夫人の髪を梳いて結う仕事で、いまでいうならお抱えの専属美容師といったところです。


御梳と書いて、おかんあげ、と読ませます。御髪上げ(おかみあげ)に由来する言葉で、宮中言葉といわれます。平安時代には女房に仕える侍女の仕事で、御髪上げを専門にする侍女がいました。


女性相手の女髪結の仕事は、18世紀前半に大坂でおこったのがはじまりとされていますが、これは多くの女性を相手にした職業をさします。支配者や特権階級、富裕層の人に雇われ夫人や家族を相手に仕事をする、お抱えの専属技能者は、人々に上下関係が生まれた古代から存在しました。


西洋ではバビロニアの時代には王には専属の理髪師がいたといいます。日本でもムラが形成された縄文時代には支配者に従属するかたちで支配者の身の回りの世話をするために仕えていた人がいてもおかしくありません。身の回りの世話には、髪のほかに食事や衣類などの面倒を見る人もいたはずです。


お抱えの美容師は、21世紀のいまも存在します。超富裕層の人に雇われ、自宅には専用の美容施術用のスペースがあり、毎日手入れをします。旅行に行くのにも同行し、雇用主の髪を整えます。雇用主に信頼され常に身近にいる存在です。


紹介した絵は、金紙七髷結の挿絵です。吉田半兵衛という当時有名な挿絵画家が描いたといわれてます。一代女が奉公先の夫人の髪を梳いている絵に見えます。

『好色一代女』には多くの挿絵が挿入されています。島田髷も多く見られますが、髻を結っただけのポニーテール状の髪や垂髪も多い。ポニーテール状の髪は遊女らがした髪です。17世紀は、島田髷や丸髷など日本髪へ移行期で、垂髪、ポニーテール状の髪が混在していたのが、挿絵からうかがえます。


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