2022-07-10

髪結川柳

江戸時代に詠まれた川柳を古川柳というらしい。

正確には明治後期以降の川柳を新川柳というので、明治中ごろまでの川柳が含まれます。このサイトで紹介する髪結に関係する川柳は、柄井川柳の誹風柳多留(明和2年ー天保11年)、川柳評万句合勝刷(宝暦7年-寛政元年)を中心に紹介しています。江戸時代の川柳ばかりなので、江戸古川柳ともいえます。

なお、当サイト『江戸川柳』に採録した川柳は、『江戸の生業事典』(渡辺信一郎、東京堂出版)によります。


古川柳は当時の世相や風俗、情景が滑稽、風刺を利かせて詠まれています。髪結、髪結床の一端を垣間見ることができます。

とはいうものの、当時使われていた言葉のなかには、意味がよくわかならい言葉が少なくありません。いまと同じ言葉でも、当時とでは意味合いが違うものもあります。また、言葉のなかには暗喩が隠されていることもあります。これらを正確に理解するのは難しい。まして川柳にまったくの素人では、意味不明な川柳も少なくありません。


髪結の起こして廻る松の内 (明元礼2)

廻り髪結が得意先の客宅に行って、幕の内はゆっくりと寝ていたい客宅の家人をおこす、という川柳。客の月代が伸びているのではと気を利かせたつもりかもしれませんが、おこされる家人にとって迷惑な廻り髪結なようです。


髪結は片膝立てて揉むを待ち (明元義4)

髪結床にやってきた座頭の按摩に、仕事で疲れた髪結が揉んでくれるのを待っている。按摩は、客としてやってきたのか、髪結床の前を通りかかったところを呼び止められたのか?

あるいは道を行く按摩を見かけた廻り髪結が声をかけたのかもしれません。


髪結はぱっちりいわぬ傘をさし (明三礼4)

使い古して、パッチリと閉まらない傘のことなのか、外出の少ない髪結は傘を使う機会が少なく、放りっぱなしの傘を持ち出したのか?ぱっちりに暗喩がありそうですが、不詳です。


仰向くと髪結喉を覗くなり (天三天1)

髭を剃するとき客が口をあけた、それを覗きこみ髪結。よくありそうな情景を詠んだだけなのか?


よけいの仕事髪結の角大師 (三二2)

髪結川柳に角大師はよく登場します。角大師の絵には二つの角があり、髻を二つとる結い方の可能性もありますが、角大師は鬼の姿の絵もあり、縮れ毛の客の可能性が高そうです。縮れ毛は丁髷には不向きです。まっすぐに毛を伸ばすのに手間がかかるし、せっかく結っても、すぐにカール状になってしまいます。


よけい、とは余慶。祖先の善根によって、子孫が報いが現れることを暗喩に含んで詠んだ川柳かもしれません。


〇髪結床異見を言って叱られる (安三仁5)

岡場所の話で客と違う意見を言った髪結が叱られた、という川柳です。髪結には吉原や岡場所がつきものようです。異見とは、どこの遊郭がいいとか、どこの岡場所がいいとかの話で、客と違う私見を述べたのでしょう。


きょうけべつでん煮豆と髪結床 (一三五11)

きょうけべつでん、とは教化別伝のことでしょうか? 髪結の親方に秘伝の技があるように煮豆の煮方も煮豆屋によってやり方が違う。そんな秘伝の技を弟子に教え伝えていたのでしょう。


いまは理美容学校で理容美容教育センターのテキストを使って技術を習得するので、基本的な技術は共通していますが、子弟教育の時代は親方によって、髪結の技、月代剃りの技、毛梳きのやり方や手順などまちまちでした。

独自のやり方を伝承した髪結でしたが、髪結社会は決して閉鎖的ではなく、髪結仲間の寄合があると、髻やタボ、鬢などの最新の情報を交換しあうなど勉強熱心だったことも他の川柳からわかります。


髪結の昼寝一緒に樽拾い (安四礼6)

髪結は昼寝の最中。そこにやってきた酒屋の小僧と一緒に酒樽の回収をする、という川柳でしょうか?

酒屋の小僧は御用聞きしながら酒樽を回収して歩いたといいます。髪結川柳にも御用聞きが登場しますが、酒屋の御用聞きというのが相場です。


樽は回収して再利用します。古い酒樽は燃料に使用したと思われます。江戸時代後期になると割りばしに再生したそうです。循環社会を実践してた江戸でした。


 

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 「ヒゲを剃る」ことを「ヒゲを当たる」ともいいます。