2022-06-09

髪結が敬遠したい客

令和のいまも理美容師さんにとって苦手な客はいると思いますが、江戸の髪結にとっても敬遠したい客はいました。

髪結も百に三つは骨が折れ (宝十三信2)

女性の和髪も男性の丁髷も直毛を前提とした髪型です。全体のデザインも重要ですが、面の美しさが決め手になります。きれいな面を出すには直毛でなければなりません。ところが日本人は直毛が圧倒的に多いのですが、100人に数人はクセ毛の人がいます。


この川柳では100人に3人といっていますが、縮れ毛に近いクセ毛の人だと思われます。クセ毛の人の髷を結うのは大変です。木蝋を多くし粘度を上げた鬢付け油を使うか、さらに松脂を加えて、思い切りテンションをかけて結ったと思います。

結い上げた当初は、なんとか様になっても時間の経過とともに、ウエーブが目立つようになってしまう。髪結にとっても困った客ですが、客本人はもっと困ったかもしれません。


結う前には毛梳きをして汚れを取り除きますが、粘度の高い鬢付け油を使うと汚れの付着も強くて梳くのにも人一倍大変だったのが想像できます。


クセ毛で髪を結うのに苦労した話は、幕末・明治の思い出を書いた『武家の娘』(杉本鉞子)に詳しいですが、100人に数人は強いクセ毛で困り果てた人がいたようです。ちなみに弱いクセ毛の人を加えると、5割程度の日本人はクセ毛という説もあります(諸説あります)。


髪結床伊休を見るとうるさがり (宝十三松3)

伊休は、歌舞伎「助六」の髭の伊休です。白髪白髭で、もじゃもじゃの白髭で登場します。

髪結床鍾馗が来るとうんざりし (明二松5)

鍾馗も髭面です。強い髭を連想させます。

伊休や鍾馗のような強い髭面を剃るのは、髪結にとっては大変です。そんな客にうんざり。


髪結は湯を沸かせて、剃る前に髭を温めて柔らかくします。いまのようにシェービングソープや、濃い髭の客用の柔軟剤があるわけではありません。おそらく熱い湯で温めた手拭で髭と皮膚を温めながら剃ったのだと思います。


濃い髭をあたっていると、髪剃りの刃の切れが悪くなり、髭剃りの途中で研がなくてはならなかったかもしれません。手間のかかるやっかいな客なのは確かです。


惚れられてから髪結の迷惑さ (宝十松1)

客に惚れられた、ここでは客に気に入られた、という意味合いです。客に気に入られるほど腕の確かな髪結なら、歓迎できる話のようですが、この川柳の客は何かと注文がうるさい客のようです。だから髪結は迷惑なのです。令和のいまでも、こんな客はいるかもしれません。

 

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