2022-06-05

髪結床のさまざまな客

 髪結床には、これから岡場所に出かけようとする客や暇つぶしの客、そして集会所として寄り集まってくる客など、さまざまな客がやってきます。ここでは、それ以外の川柳に詠まれた客を紹介します。

髪結床中富さんを言う所 (明三桜6)

中富さんとは、歌舞伎役者の初代・中村富三郎です。歌舞伎の専門サイトによると、上方の役者で、宝暦のころ江戸・中村座で踊った『京鹿子娘道成寺』が大当りした、とあります。髪結床でも人気役者の噂話で盛り上がったのでしょう。


かまりけり髪結床で髭を抜き (宝十二松3)

順番待ちで手持無沙汰な客が髭を抜いて、暇つぶしをしていたのでしょう。そんな客もいました。


髪結床待つ内座頭しゅじゅな顔 (安五信2)

座頭は視覚障碍者です。江戸時代は視覚障碍者が多くいました。女性はこぜとして遊芸をしながら各地を回っていました。男は、平曲(琵琶法師)や箏曲の演奏もしていましたが、この時代は按摩や検校、金貸しなどをして生計をたてる視覚障碍者が多かったようです。

髪結床にやってきた座頭が何の仕事をしていたのかはわかりませんが、いろいろな顔の表情をして順番を待っていました。

しゅじゅ、とは種々。さまざま、いろいろ。


髪結は急ならここでなさりやし (筥四41) 

順番待ちをしている客が小便(あるいは大便)を催したようです。髪結の親方が、他町からの客に「ここの便所を使いなさい」。町内の共同便所です。生理現象なので仕方ありません。こればかりは令和のいまも変わりません。


髪結の好きに結わせる信濃者 (安六智6)

信濃者は、農閑期に江戸へ出かせぎに来た季節労働者ともいいますが、出身地が信濃の町人かもしれません。信濃者は髷やタボなどにうるさい注文はいわず、髪結に任せる人が多かったようです。髪結は、歓迎する客です。


髪結は毛受け一杯目出度がり (明元鶴1)

髪を結ってもらう客は毛受けを持ち、月代で剃った毛を受けます。その毛受けがいっぱいになった。病いで、しばらく髪結床に来れなかった、病み上がりの客です。やっと病が治り、髪結の親方が喜んでいます。


晩にいる頭だひとつ遣ってくれ (安二梅2)

見世仕舞いの晩方に髪結床に入ってきて、髪結を頼む客です。馴染み客の頼みはきかないわけにはいかないのは、いまも同じです。


夜夜中茶屋は髪結呼び歩き (明三松4)

客の髷が乱れた客のために茶屋が髪結を探して右往左往している様を詠んだ川柳です。男女の逢瀬の場を提供している茶屋もあったようです。


髪結は粗末にならぬ百旦那 (明六梅2)

百旦那とは、100文くらいしか出せない貧しい檀家。少額しか出さないので寺では粗末に扱われることが多いのですが、髪結床では普通に扱ってくれる、という川柳。町の髪結床は武家・商人・職人などの身分や貧富に関係なく客として平等に対応していました。


髪結床皆百うけにはって置き (明五梅4)

髪結床には商売人もやってきます。その商人が扱う商い品の宣伝を書いた紙をそこいらの柱に貼って置いたようです。客から頼まれれば断れません。髪結床は、貼り紙でいっぱいだった?


やらかしてくれろと入る髪結床 (明三桜4)

何を「やらかす」のかわかりませんが、「やらかす」には、よくない行いのニュアンスがあります。


青と赤白黒のよる髪結床 (一一六)

髪結床にはいろいろな客がやってきました。青・赤・白・黒が寄ってくるのが髪結床でした。この「青・赤・白・黒」、何かを比喩しているのか、それとも古代にはこの4色しかなく、つまり「すべて」「あらゆる」の譬えなのか、なんともいえません。


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ヒゲを当たる

 「ヒゲを剃る」ことを「ヒゲを当たる」ともいいます。