髪結、髪結床を詠んだ川柳は数多あります。髪結の仕事ぶりや、仕事を通して髪結と客とのやりとりを描いた川柳もあります。
〇顎のひげもっと濡らそと喉で言い (明四仁5)
髭を剃っている最中、おそらく髭が剃刀にかかって痛かったのでしょう。髭を湯を染み込ませた手拭で濡らせば、痛くないはずです。声を出して言いたいが、剃刀が口元にあっては声は出せない。喉の奥を動かして言ったのでしょう。
〇髪結に剃らせて乳母は疑われ (宝十三信3)
髪結床は男だけの空間のイメージが強いのですが、若い娘は別にして、年増な女性がやってくることもあったようです。白粉のノリをよくするために顔を剃ってもらったとは考えにくい。おそらく自分ではできない襟足を剃ってもらったのでしょう。とくに特別な人と会う時などは髪結に剃ってもらった。
この川柳から、多くはないにしろ年増女は襟足剃りで髪結に来ることもあったのがうかがえます。
剃ってもらった乳母が疑われた、という川柳です。誰か特別な人との密会を疑われたというのが普通の解釈のようです。
〇襟足を直し髪結あしがつき (一一七5)
この川柳は、岡場所で遊んだ髪結が相方の遊女の襟足を直してあげたのでしょう。素人離れした手際と出来に、髪結であることがばれてしまった。
〇剃ってやる襟に髪結足を付け (一〇九14)
襟に不調法に毛が生えている人は多い。そんな客の襟足を剃ったのですが、女がするように襟足をつけて剃った。客に女のように襟足をつけてからかった、冗談好きな髪結でした。
後で、襟足をつけられた客とひと悶着起きなければいいのですが。
〇そのように笑いなすっちゃ剃られない (筥一31)
客待ちにいる客との会話で笑いが止まらないのかもしれません。よほど面白かったのでしょう。しかし笑う客に剃刀をあてるのは危険です。
〇くしゃみをば髪結床が仕切り (宝十松3)
月代や髭を剃っているときに、客待ちの誰かがくしゃみをしたら手元が狂う恐れがあります。そんなことにならないように、髪結の親方がくしゃみまで仕切っていると詠んだ川柳です。実際には生理現象は不如意なものです。突然のくしゃみで手元が狂うこともあったかもしれません。
〇ぶりぶりに分けて髪結二つ三つ (明四桜4)
ぶりぶり、とは左右に車輪がある玩具です。左右二つ、もしくは中央に一つと左右の三つの髻をとり、輪髷を結ったのかもしれません。輪髷は子供の髪姿です。
しかし、ここでは髪梳きをして左右の鬢と後頭部のタボの3つに毛束を振り分けたところを左右の鬢とタボに見立てた川柳のようです。
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