2022-06-17

髪結の仕事ぶり

 髪結の仕事は、元結を切り、解いた髪を梳いて汚れをとり、月代、髭を剃り、髪に鬢付け油を塗布し髻を締め髷を結い整えます。

一連の手順は髪結によって前後することもありますが、これらの作業を行います。


これらの作業を髪梳きは小僧、剃りは中立ちといわれる職人、そして親方が仕上げることが多かったといわれます。これを三人立ちといいます。もっとも、使用人のいない親方は一人で一連の作業をこなしましたし、廻り髪結も当然一人でやっていました。


ぐっと力んで垢をこく髪結床 (一六三19)

髪結は、まず髷を結っている元結を切ることから始めます。次にザンバラになった髪を梳きます。

この作業でよじれやクセがついた髪を直すとともに、髪に付着した汚れを取り除きます。髪には鬢付け油が塗られ、それにびっしりと汚れが付いています。その汚れを落とす作業を、「垢をこく」と表現した川柳です。ちょっとした力仕事だったようです。


この髪梳きは女性の日本髪も同様に行います。あまりの汚さに驚いた、と明治期の女髪結が修業時代の思い出を語っていますが、相当汚かったようです。



髪結は剃り付ける頃さあといい  (明二宮3)

髪結が剃刀を手にして、月代か髭を剃ろうとしています。そのとき「さあ」と一声かけた、という川柳です。刃物を使うので気合を入れたのか、それとも客に動くな、と注意喚起したのでしょう。


髪結床柱をむしりむしりつけ (明5智4)

髪結が柱をむしり、とありますが、柱に置いてあるのは鬢付け油です。鬢付け油をむしっては客の髷につけ、またむしっては客の髷につけているのでしょうか。


引っこ抜くように髪結指を拭き (明五満3)

髪結が指を拭いているのですが、拭いているのは指についた鬢付け油です。いまでもワックスやムースなどの整髪料は手掌にとってから髪に塗布するのと同じように、鬢付け油を手や指にとって髷につけていたのがわかります。


髪結は指ばか鬢へなすり付け (明八義4)

指ばか、というのは指ばかり、のことで、おそらく指先につけて鬢になすりつけていた、そんな情景を詠んだ川柳です。


髪結の捩じって付けるぼんのくぼ (明三仁7)

髪結が髻にする毛束を捩じって、ぼんのくぼ辺りに鬢付け油をつけています。


髪結はくりからにして一服し (露丸評明二道2)

ウナギを串に刺してタレにくぐらせ焼く料理法をくりから焼きというらしい。髷全体を鬢付け油で塗布して、最後の仕上げ前に一服している様を詠んだ川柳。もしくは、倶利伽羅不動明王に似ている風情の髪結が一休み?



次の川柳は仕事中の髪結の姿を描いた川柳です。

両方の手を菱にして髪を結い (一二五29)

両手を菱形にクロスさせて結っている髪結の姿です。


髪結は元結い巻くと腰をのし (明四礼7)

元結を巻けばあとは髷を整えるだけです。その前に腰を伸ばして一息入れる髪結です。髪結の仕事はかがんでする作業が多い。


よく締めたとこを髪結舐めるなり (天七9 15)

元結を締めたあと、舐めることもあったようです。


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ヒゲを当たる

 「ヒゲを剃る」ことを「ヒゲを当たる」ともいいます。