2022-05-04

刈込料8銭は、いまなら4800円ほど

 『ビゴーが見た明治職業事情』(講談社学術文庫)「床屋(洋式理髪店)」で、著者の清水勲さんは、『東京日日新聞』(明治15年3月25日号)を引用して、東京府の理髪の料金を紹介しています。



「府下の刈込髭剃料金が店によってまちまちで混乱しているため、組合で話し合い、ついに刈込八銭、髭剃四銭と決議した」という新聞の記事です。清水さんは「もう床屋が乱立してきたようにも感じられる」と感想を述べています。


床屋は髪結床の江戸時代から乱立していました。髪結床が増えれば、髪結賃が下がるのは、需要と供給の経済原則の通りです。そこで髪結床は髪結仲間(組合)で料金を取り決めて稼業をしたり、幕府により一町一株の床屋株で守られ、髪結床が増えるのを防いでいました。ところが隠れて稼業をする忍び髪結はあとをたたなかったようです。


なにしろ鬢盥の箱一つあれば、どこでもできる仕事です。公認していた髪結床からは上納金を受けていた町奉行ですが、忍び床屋を取り締まる余裕はないし、するつもりもなかったようです。違法営業は組合に加入している髪結床が自ら対処しなければならないのですが、そう簡単にはいかなかった。


明治になり、髷を結う髪結から西洋理髪へと仕事の内容は変化しましたが、理髪師のなり手は多く、放っておけば供給過剰になり既存業者の実入りは減ります。そこで明治になっても理髪仲間で寄合い、時には組合を結成して、料金を協定し値下がりを防いでいたのです。また理髪店の多い地域では新規に開業させないため、開業するには組合の認可を求めることなどをしていました。

結局のところ、いつの時代もあまり元手がかからずにできる髪結や理髪の仕事はいい仕事なのです。


ところで、『東京日日新聞』の記事にある「刈込八銭、髭剃四銭」については、いまの貨幣価値でどのくらいなのでしょうか?

清水さんは「当時、大工の日当が30銭、米一升が9銭ほど」と親切に相場を紹介しています。いま大工さんの日当は2万円弱ぐらい、米の値段はピンからキリまで数倍の開きがあって比較するのは無理がありそうです。

大工さんの日当を1万8千円として計算すると刈込料金は4千8百円になります。髭剃料金はその半分。この計算が当時の実態に近いのなら、理髪業者にとって理想的な料金といえそうです。


当時の女髪結の結賃は、安い(下等)のは3銭ほど、高い(上等)のは10銭を超え、幅がありますが、理髪に比べると安い。明治になって女髪結が急増して結賃が下がったからです。女髪結も理髪と同様、協定料金、新規開業を防止を求めて活動をしています。


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