今年の夏も、容赦ない酷暑でした。
体温が上がれば、体は必死に熱を逃がそうとします。皮膚へと流れる血液量が増える一方で、脳へ届く血液は減り、自律神経に多大な負荷がかかります。結果として集中力や判断力が低下し、やがて「のぼせ」という不調に繋がります。
広義の熱中症とも言えるこの症状に苦しんだ人は少なくないでしょう。2024年の猛暑によって日本の労働生産性が年間で約28億9000万時間も失われたという試算もあります。もともと生産性の向上が叫ばれる日本経済にとって、これは文字通り「一大事」といえます。
対策は急務です。冷房の活用はもちろんのこと、ファン付きベストの着用や、街の理美容室が提供する「冷シャンプー」の涼感メニューなども、いまや夏の風物詩であり防衛策となっています。
全国理容業生活衛生組合連合会が、地球温暖化対策の社会貢献として長年「クールビズヘア」を推奨してきたのも、こうした文脈の延長線上にあります。しかし、髪型による暑さ対策という点において、歴史を振り返れば、強力な先達がいた。戦国時代から近世にかけての定番スタイル、すなわち「月代(さかやき)」と「丁髷(ちょうまげ)」です。
もともと月代は、合戦時に兜をかぶって激しく立ち回る際、頭部の温度上昇による「のぼせ」を防ぐために考案されたといわれています。理にかなった実用的な知恵の結晶が、あの独特なヘアスタイルにつながったわけです。
戦国時代末期には、頭頂部を極端に広く剃り上げる「大月代」が大流行し、江戸時代初期にも一部の下級武士や任侠の気風を好む人々に受け継がれました。現代の美的感覚からすれば、「おしゃれ」と捉えるのは少々難しいかもしれません。だが、過酷なサバイバルを生き抜いた武士たちにとっては、実用性と最先端のスタイルが巧みに融合したトレンドだったのかもしれません。
地球沸騰化とも言われる現代の夏。冷房や機能性ウェアを駆使する私たちは、もしかすると、かつての武士たちが頭頂部に託した知恵を、違うかたちで現代に再現しているにすぎないのかもしれません。

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