2026-03-28

日本髪の時代に横行した簪泥棒 ビゴーのイラストが伝える風俗史

 簪には、木製の安価なものから、鼈甲(タイマイ)で作られた高価なものまでさまざまな種類があります。ただし簪は髪に挿して飾るだけのものなので、高価な簪ほど簡単に引き抜くことができ、盗まれてしまう危険もありました。

江戸時代にはすでに簪泥棒が横行していたようで、戯作者の小説にもたびたび登場します。こうした被害は明治になってからも続いていたようで、フランス人画家のジョルジュ・ビゴー(1860〜1927)は、まさに泥棒が簪を盗もうとしている瞬間を描いたイラストを残しています。

簪を盗もうとする泥棒を描いたビゴーの風刺画(1905年のフランス雑誌掲載)


このイラストについて、幕末から明治期の画像史料に詳しい清水勲は、「ゴム製の小さな釣り竿のような道具を使い、素早く盗む様子が描かれている」と解説しています(『ビゴーが見た明治ニッポン』)。実際にビゴーが目撃した場面をもとに描いた可能性もあるようです。


ビゴーは1882年(明治15年)から1899年(明治32年)までの約17年間、日本に滞在し、当時の世相を風刺画として数多く描きました。今回紹介しているイラストは、フランスの雑誌『ジュルナル・デ・ボワイヤージュ』(1905年12月17日号)に掲載されたもので、帰国後に日本でのスケッチをもとに仕上げた作品と考えられています。


ビゴーが日本に滞在していた時期は、日本髪が最も広く見られた時代でもあります。ビゴーは日本髪の女性を数多く描いており、その姿から当時の風俗を知ることができます。男性を誇張して風刺的に描くことが多かったビゴーですが、女性の姿は比較的好意的に描いている点も特徴です。


簪は泥棒にとって格好の獲物だったと考えられます。おそらく笄も盗みの対象になっていたはずです。ただし笄には装飾目的のものだけでなく、実際に髪をまとめるために使われるものもあります。たとえば「達磨返し」などの髪型では、笄を抜くと髪がほどけてしまいます。その点は、当時の泥棒も心得ていたのではないでしょうか。


ビゴーのイラストには、簪だけでなく、履いている高価な下駄を盗もうとする泥棒の姿も描かれています。履いている下駄を盗むというのは、まさに神業のような手口です。簪泥棒が初心者の盗人だとすれば、下駄を盗むのはかなり腕の立つ泥棒だったのかもしれません。


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日本髪の時代に横行した簪泥棒 ビゴーのイラストが伝える風俗史

 簪には、木製の安価なものから、鼈甲(タイマイ)で作られた高価なものまでさまざまな種類があります。ただし簪は髪に挿して飾るだけのものなので、高価な簪ほど簡単に引き抜くことができ、盗まれてしまう危険もありました。