2022-12-09

理容師・美容師の名称独占論議

 理容師・美容師は国家資格で、いうまでもなく免許がないと理容・美容の仕事に携わることができない業務独占の資格です。

この国家資格である理容師・美容師については、規制改革が議論されるたびに、改革の対象として、業務独占から名称独占への変更が取りざたされてきました。


なぜ規制改革のたびにしばしば俎上にあがるのでしょうか? 

理由は、大きく二つあります。

一つは、無免許での就業が横行している、とみられているからです。

第一次臨時行政調査会の答申(昭和36年)では、無免許就労が多いのを理由の一つにあげて、業務独占の緩和を提案しています。報告書で無資格就労の割合が東京では43%ある、と指摘しています。

この数字は出所が不明のため業界は疑問視し、全国理容連合会、全日本美容連合会、日本理容美容教育センターの3団体は反対運動を行いました。


当時は、例えば理容師の店主と無免許の奥さん二人で店を切り盛りしていたり、スタッフのいる店では無免許の奥さんが免許取り立ての新人理容師を指導していたりすることがありました。また通信教育の学生が一人前の技術者として仕事をしている店もありました。

43%が無資格者というのは出所不明で疑問ですが、無資格者の就業はかなり行われていたようです。


平成の時代には、無資格者のカリスマ美容師が指導され話題になりました。無免許であることをメディアで公言したために、保健所も動かざるを得なかったのでしょう。

生衛行政・保健所は理容師・美容師の資格の有無についての確認は積極的に行っているとはいえません。前述のカリスマ美容師も無資格を公言したりしなければ、指導されることはなかったでしょう。


そして令和の時代になって、某大手美容室サロンでの無資格美容師が保健所の臨店査察を免れる手口を、元従業員がSNS上に掲載し、一部ですが話題になっていました。受付業務担当の女性が書いたものですが、具体的な内容で信憑性は高い。


無資格就業はいまも続いている可能性はあるかもしれませんが、昭和の時代に比べたらその数は格段に減っていると思われます。


二つ目の理由は、理容師・美容師の免許の軽さにあります。国家資格としての重要性が低い、ということです。こちらの方が規制改革のたびに取りざたされる根源的な問題といえます。


軽さは、資格の及ぶ範囲に現れています。

例えば医療行為は医師でなければできませんが、理容美容行為は、業務として行うには資格が必須ですが、家族や特定の人に行う場合は不要です。医療とは違う扱いです。自動車の運転も無免許で家族を乗せるわけにはいきません。理容師・美容師免許は、医師免許や運転免許より軽い。


医療も運転も万が一、事故が起きた場合、生命にかかわる影響があるので、より厳密な運用をしています。その点、理容美容の行為での事故は、切り傷ていどで、生命に危険が及ぶことは、まずありません。このへんの事情を勘案して適用範囲の運用に差があるものと思われます。


南極大陸の観測隊では、半日かけて理容・美容の技術を学んだ素人(隊員)が隊員の髪をカットします。日本で働く外国人も手先の器用な人が同胞の髪をカットすることが多くみられます。もちろん無料です。こんな実態があることも無免許就業を助長しているのかもしれません。


そして、軽い免許の割には、他の免許と比べて取得のハードルが高いことも、指摘されるとことろです。他の免許のバランスの問題です。


理容師・美容師免許は平成7年の法改正(10年施行)で知事免許から、厚生労働大臣免許として全国統一の国家免許になりましたが、例えばふぐ処理師の免許はいまだに知事免許です。

しかも自治体によって基準にばらつきがあります。ある県では所定の実技年数を満たし、さらに実技試験、筆記試験の合格が条件ですが、ある県では座学の講習を受けただけで、ふぐの処理業務に携われます。ふぐ料理にかかわる自治体の状況の違いが反映されているものと思われますが、命にかかわる恐れがあるふぐ処理師でもこの程度です。


理容師・美容師になるには、2年間の修学を経て実技と学科の試験に合格しなければなりません。ハードルが高い割には、取得した免許は軽い。

万が一の事故が起きても重篤なものは稀で、理容師法・美容師法がなくても他の法律でカバーできるという考えで、調理師免許と同様に名称独占の国家資格で社会的には十分、とする意見に結びつきます。


これからも規制改革が提議されるたびに、理容師・美容師のあり方が対象になる可能性は高い。

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