2020-12-07

『理髪業祖北小路采女之介伝記』

 『一銭職由緒書』は偽文書とされています。

まず、北小路采女之介が活躍した鎌倉時代、烏帽子装着が男子の風俗で、烏帽子の内に収める髻は自ら結んでいました。髪結が仕事として成立するのは月代の風習がひろまり、月代を剃るようになってからです。


北小路家は北家藤原氏の流れですが、『官職要解』によると文書などを扱う名家で、しかも戦国時代末に誕生した新家となっています。そもそも鎌倉時代には存在しない殿上家です。

この2点からしても『一銭職由緒書』は偽書であることは明白です。江馬務さんが「とるにたらぬもの」と一蹴したのもうなづけます。


『一銭職由緒書』は江戸府内の髪結が町奉行に上申した書ですが、同様の由緒書きは各地に存在し、また後年には『一銭職由緒書』を追認しさらに追記した内容の書籍も公刊されるなど、真実味がでてきます。世の中には、偽書と知りながら、あえて真実であるかのように仕立て上げる人もいます。



大正11年に発行された『理髪業祖北小路采女之介伝記』(浜野行民 編、出版・采女会)もその一つです。偽書の伝記なので信憑性は低いのはやむをえませんが、江戸期の髪結に関する記述もあり、その内容によっては検討に値するものもありそうです。


ちなみに編者の浜野行民さんは不詳です。采女会も同様ですが、采女之介を業祖として祀る理髪業者の会と考えるのが普通です。


写真は国会図書館デジタルコレクションより

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/927450


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